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拓殖の先達に訊くvol.04


拓殖の先達に訊く_vol04_メインビジュアル

戦争・紛争の本質の理解を目指す
「紛争学」、「非伝統的安全保障論」とは

ー遠藤教授のご専門である「紛争学」「非伝統的安全保障論」についてそれぞれ教えてください。
まず、「紛争学」とはどのような学問なのでしょうか。


人類の歴史において常に存在してきた戦争・紛争の問題は、これまで一般的には国際政治学や紛争研究などの分野で研究されてきました。特に紛争研究ではこれまで、「なぜ戦争・紛争が起こったのか」という“原因論”の研究が多数行われてきましたが、諸説紛々であるばかりか、20世紀の第一次・第二次世界大戦についてさえ、「なぜ、あのような大戦争が起こったのか」が解明されたとは言い難いと思います。

私自身はこうした“原因論”によるアプローチに限界を感じるようになり、“紛争形態”という概念を援用しています。この概念の提起者であるアルヴィン・トフラーは歴史上の各時代にはそれぞれ異なる紛争形態があるとしているのですが、この視点からは、個々の紛争がその時代の社会の在り方とどのような関係を持っていたかとか、誰が何のために紛争を戦うのかといった紛争の本質的部分に大きな関心が置かれます。明確な定義があるわけではないのですが、クラウゼヴィッツの『戦争論』に代表される戦争の本質論が「戦争学」と呼ばれることもあって、それより広く対象をとる意味で「紛争学」という言葉を使っています。


ー戦争・紛争というと、安全保障と切り離せませんが、先生は安全保障論の論稿も多数書かれています。
「非伝統的安全保障」とはどんなものでしょうか。


安全保障論は初期の国際政治学と同様に、国家間の「戦争と平和」の問題に重きを置いた学問領域でしたが、先ほど述べたように紛争の在り方や意味は時代によって変わるので、何を何からどう守れば平和が達成されるのかも変わって当然です。冷戦終結前後からは、軍事以外の環境、経済、国際犯罪、サイバーなどの分野も安全保障の課題であるとする安全保障論の拡大傾向が顕著になってきて、日本ではそうした範囲のものを「非伝統的安全保障」と呼ぶようになりました。

私が英国のサセックス大学で国際犯罪やテロリズムの問題を学んで帰国した頃は、そのような対象に関心を持つ国際関係の研究者は僅かだったと思いますが、その後状況が一変することになりました。私は軍事的な安全保障問題も扱っているのですが、非伝統的安全保障の理論や、軍事の後退傾向とそれに代わる手段の登場についての論考を行ってきたため、「非伝統的安全保障」分野の研究者と見られることが多いようです。

近年では、非破壊的な攻撃手段を用いる「ノンキネティック戦」、「認知戦」、軍事と非軍事的手段のミックスを表す「ハイブリッド戦」といった言葉が頻繁に使われるようになってきていますし、そうした意味では確かに、近年の安全保障は軍事よりもむしろ「非伝統的安全保障」に含まれる非軍事的分野の要素が大きくなってきていると言えるかもしれません。

逆井城

中世の城郭の様子を考証・復元した珍しい史跡公園の逆井城 (遠藤教授撮影)

ー「地政学」にも関心をお持ちとの事ですが。

地政学」は現在とても人気のジャンルのようですね。学術的には「19世紀的な発想に基づく基礎理論から抜けられていない」など、もっともな批判も受けています。但し、政治・経済・軍事などに地理的条件が大きな関わりがあるのは間違いないことですので、地理・地形を見る視点は大事だと思います。例えば、一般的な地図で見ればただの平面に見えても、実際の地形は交通困難といったことは多々あります。

数年前から城郭に興味を持つようになって、戦国時代の城を中心に200以上の城郭の遺構を訪れてきました。回を重ねるうちに、地形と城の防御構想の関係もある程度わかるようになってきます。このようなフィールドワークは、安全保障と地理的条件の関わりを一番基礎的な事例で知るという意味で、とても有益だと思っています。


ー「危機管理論」も担当されていますが、どんなことを学べるのでしょうか。

「危機管理論」は学術的には未熟で、実践的な対処論という色彩が強いと思います。授業では、人為災害から国民保護の問題まで広く事例を扱うと同時に、規範的な観点を重視しています。安全を追求するあまりに過剰な対策を行って生活の質を下げるのではなく、「自由で活き活きとした民主的社会を維持するための適度な対策を考えることを常に意識する」というのが私の危機管理論のベースです。

「知」へのこだわりをもった人を
育成していきたい

ー講義や学位論文指導の際、特に意識されていることは?

大学院なのでどうしても観念的な事柄の理解が大切になるのですが、できるだけ正確かつわかりやすい言葉で話すように努めるとともに、学生さんにも「何となく伝わればいい」ではなく、数学的な「精度」を持った言葉で話したり書いたりすることを心がけてもらうように伝えています。また、(将来の)学位所持者として最低限知っておいてほしい知識は、「この範囲のことは覚えるようにしてください」と提示しています。

ゼミでは論文の書き方を含め、研究への臨み方は、何度も重ねて伝えるようにしています。まずは、「学術論文とはどのようなものかを知る」ことが大事だと思います。これがわからない人にはなかなか適切な文章が書けません。それがわかってくると、リサーチ・クエスチョンと研究方法、キーワードの定義、オリジナリティ…といった要素の有機的な意味が掴めてくると思います。

ーどのような学生を育成していきたいとお思いでしょうか。

政治思想的な意味ではなく、学問・科学の本質論として、学問は保守的・体制的なものではないと思います。「正解は一つ。それを教えてもらおう」という受験勉強的姿勢では学問になりません。「正しい」として多数の人に語られていることが「本当に正しいのだろうか?」と絶えず問いかける、学問的意味での「批判的」姿勢なしには学問はあり得ませんし、視点によって答えが複数現れるというのも学問的には不思議なことではありません。

本来大学というところは、第一義的に研究を通じて「真実」を追求する「知」の場所です。最近の若い人は、概してやさしく素直だと思う一方で、世の中の情勢に対して、ポジティブに受容的でありすぎるのではと思うことがあります。そういう意味においても「知」「真実」へのこだわりをもった人を育成していきたいですし、これは大学院の社会的役割の一つだと思っています。

ー国際協力学研究科 安全保障専攻のゼミ生の特徴や、ゼミ生のこれまでの研究テーマについて教えてください。

年度により異なりますが、学部を卒業してそのまま入学する方、現役社会人、定年退職したシニアの方までさまざまです。自衛官をはじめ社会人の方は毎年複数名おられます。学部生をはじめ、これからの社会を担っていく若い方々にも、ぜひこの安全保障専攻に来ていただきたいですね。

私のゼミ生のこれまでの研究は、「民間防衛」「間接侵略」「戦前期の軍事法制」「空軍の国際法規制」「日本とNATO」「軍隊でのPTSD」「ハイブリッド戦争」など、実に多岐にわたるテーマが扱われています。これまでに3名のゼミ生が、博士学位を取得しました。

潜水艦

ー国際協力学研究科 安全保障専攻で学ぶことで、社会ではどのような道に進むことが可能でしょうか?

安全保障分野を学んだ専門性を日本で活かそうと思うと、防衛省・自衛隊、防衛関連産業、広く見ても税関などの国境管理機関や法執行関連機関などに限られてしまいますが、国際関係の知識を広く得ることで身につけた見識を活かすという意味においては、公務員、ジャーナリズム、商社・金融ほか一般企業にも幅広く道が拓けているとは思います。また、いわゆる地政学リスク分析や防災の分野では企業の可能性などもあるのではと思います。

安全保障研究に
しっかり取り組める

ーどんな学生に入学してほしいとお思いでしょうか。
また、拓殖大学大学院 国際協力学研究科 安全保障専攻の強みとは、どのようなところでしょうか。


大学院修士課程は2年という短期間で「専門家」を育成する機関ですので、学部の延長期間や教養講座とは違います。しっかりと研究をやりたいという方、柔軟な思考の方に入学してほしいと思います。

拓殖大学の大学院・安全保障専攻では、多くの専門家が居て、基礎的な理論・知識から、各地域の現勢などまで専門的な知識を深め、安全保障研究にしっかり取り組めるところが強みです。

また、安全保障専攻は、拓殖大学の付属研究機関である「海外事情研究所」が中心となって運営していますが、海外事情研究所は日本の安全保障学界では高い評価を得ている機関です。この関係も安全保障専攻の強みと言えると思います。

ー最後に、拓殖大学大学院 国際協力学研究科 安全保障専攻に興味関心を抱いている皆さんにエールをいただければと思います。

日本では大学院卒だけが対象の公募はあまり見られませんが、国際機関などでは修士号所持者のポジション、博士号所持者向けポジションとして募集されます。国際社会は日本のような「“学校歴”社会」ではなく「学歴社会」だと言えるでしょう。そういう意味で学位は「資格」とは異なります。そのような評価がされるのは、専門性ももちろんありますが、欧州では近代になり宗教に代わって「知」を司るものとなったのが科学/学術であり、それを修めた証が学位だからです。大学院生活は大変なこともあると思いますが、修了した暁には、世界に通じる学位を取得することができますし、我々はそれにふさわしい見識を持った人を育てるよう努めています。

拓殖大学は戦前から存在する伝統校ですし、「海外事情研究所」は以前から多くの安全保障研究者を擁しています。高度な教育と自身の研究を通した専門性や、より良く世界を見極める視野を得たいと思う人は、ぜひ当専攻の門を叩いてほしいと思います。