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拓殖の先達に訊くvol.12


多岐にわたる社会課題の解決を求めて

丹羽:私の研究領域は政治学で、特に政治過程論を専門分野にしています。特定の政治課題がどのようにして考えられ、検討、決定、実施されるのか。そのプロセスで展開されるアクター間の相互作用をフィールドワークによる調査研究をベースに、理論的、実証的に検証・分析するものです。大学の外では、国会議員、地方議員のアドバイザー役として現実の政治にも深く関わっています。石岡さんは、仕事をされながら、高い志を持って地方政治行政研究科に進学されました。本学の地方政治行政学を専攻した理由を改めて教えてください。

石岡:私は2024年3月に、通信制大学の教養学部を7年かけて卒業しました。在学中、日本で議論が行われている少年犯罪における厳罰化や社会的排除、貧困の問題に強い関心を持つようになり、また国際情勢においても、過去から現在まで継続している民族紛争や戦争、それに付随する人権の問題についてより深く学びたいと考えるようになりました。こうした大学の学びを通し、幅広い政治問題について、その構造や根本的原因と解決策を見つけたいと考え、大学院の進学を決めました。

進学先を選ぶ際は、多様な学びを得ることができ、楽しく学べる環境を重視しました。本研究科は、政治や行政のみならず歴史や経済、防災など社会科学全般について指導を受けることができます。さらに、丹羽先生は、院生との距離が近く多分野にわたる学びを包括的に、かつフランクに指導してくださいます。これらの要因から、本研究科への進学を決めました。

丹羽:本研究科は、石岡さんがおっしゃる通り、院生と教員、院生相互のコミュニケーションが図りやすくアットホームな雰囲気が最大の魅力です。院生のバックグラウンドもさまざまで、これまで学部からの進学者以外に、地方議員、ビジネスマン、外交官、さらには報道界から学術界に転じた現役の大学教授まで多種多彩な社会人が在籍してきました。大学院は、人数が少ないぶん双方向型授業が可能です。講義では院生との間で質疑応答を繰り返すなどコミュニケーションを取りながら進めていますが、どのような印象を持たれましたか?

石岡:通信制大学での独学が長かったため、入学当初はディスカッションや発言に戸惑いました。しかし、緊張しながらも議論を重ねる訓練を通じて、自分の意見を述べ、批判に対して論理的に応じる力が身につきました。この変化は、社会で生きる上での重要なスキルになったと実感しています。

丹羽:石岡さんは、講義で貴重な意見を述べるだけでなく、留学生を含め院生間で起きるコミュニケーション上のちょっとしたトラブルを、その場の空気を壊さずスムーズに解決してくれるんですよね。後輩から慕われていて、うちの研究室での、まさに「調整役」のような存在です。

石岡:ありがとうございます。私はもともと周りの人と距離を置くタイプでしたが、大学院での学びと環境の中で、人間関係を円滑にする役割が自然とできるようになってきたのかもしれません。この2年間で、自身の本来のアイデンティティが形成されたのだと実感しています。

論文指導の「肉付け」
〜院生の研究を磨き、極めるプロセス

丹羽教授

丹羽:本研究科では、地方を中心に政治・行政分野における専門的かつ実践的な科目を配しており、「理論と実践の往還」を踏まえた「知的職業人」の育成を目指しています。演習ではディスカッションに加え、マンツーマンによる論文指導も行っています。「机上の空論」ではなく実際に現地・現場に足を運び、自らの目で見て耳で聞いて、肌で感じる「現地・現場主義」をモットーにしていますので、修士論文を執筆にするに当たっても、フィールドワークの実践を奨励しています。これはジャーナリズム的な取材と分析をアカデミズムに組み合わせるというアプローチの方法です。

一方で、さまざまな先人の残した古典を使って深く掘り下げる「本物にふれる」研究も非常に重要視しています。石岡さんは、この「本物にふれる」研究として、論文のテーマを「権力と支配の研究」としました。「権力と支配」は、政治学における永遠の課題でもあります。ご自身の関心分野からテーマ設定されたのですよね。
石岡:権力と支配に関する研究は、ナチス政権時代を中心に数多く存在します。中でもハンナ・アーレントの『エルサレムのアイヒマン』は、社会における権力と支配の構造を語る上で、非常に重要な著書として知られています。こうした名著は、かつては多くの人々が目することで、その内容についての議論が盛んになされていたことと思います。しかし現在では、こうした内容を議論する人は少なくなったように感じています。特に、アーレントが本書に残した「悪の陳腐さ」は、普遍的な問題であるにも関わらず、現代社会においてその重要性は日々薄らいでいることに危機感を抱いていました。

こうした現実を踏まえ、自身の論文は、かつての名著をひたすら読み、それをもとに考察することにしました。これにより、過去の偉人とその考えが再び社会に復元することにつながると考えたからです。

丹羽:石岡さんは、非常に主体的に研究を進めておられ、頼もしい限りです。論文作成における私の役割は、院生ご自身が好きなテーマを選び、それを掘り下げながら書き進め、磨き、極めていく過程において、脚注のつけ方や論文にふさわしい表現に変えるようアドバイスするなど「肉付け」していくこと。それが指導教員としてのミッションだと考えています。もちろん、研究の方向性が逸脱しないよう、時に大きな視点からアドバイスを加えることも忘れません。

石岡:難しいテーマではありましたが、丹羽先生から多くのご指導を受け、ようやく形にすることができました。ご指導いただくにあたり、当初は「叱られたらどうしよう」といった不安がありましたが、丹羽先生との議論やアドバイス、また講義の際に多くの先生から論文に関する助言や励ましをいただく中でそうした気持ちはいつしか消え、少しずつ自信が持てるようになりました。これも、丹羽先生はじめ、先生方と院生のおかげだと感謝しています。

丹羽:大学院修了後の展望については、どのようにお考えですか?

石岡:大学院生活で最も学んだのは、「自分はまだ何も知らない」という現実です。この2年間は、まさに「無知である自分」を深く認識した時間でした。その結果、大学院修了はゴールではなく「スタートラインに立つ準備」だと気づいたのです。こうした中で湧いた知的好奇心がさらなる学びを継続する原動力へと変わりました。この原動力を大切に、今後も学びを継続していきたいと思っています。

学問がもたらす「豊かな人生の土台」
〜「私らしさ」を貫く自信

丹羽:本研究科は「地方政治行政研究科」という名称から、特定の地方自治体の研究に限定されると思われるかもしれません。ですが、私たちが「ローカル(Local)」という言葉を使う際は、単なる「地方」ではなく「身近な」「距離の近い」という意味合いで捉えています。つまり、研究対象は特定の地域に限定する必要はなく、皆さんにとって最も身近な政策課題や日常生活に根差した社会問題をテーマにして構わないのです。政治・行政とは突きつめれば、私たちの生活そのものなのですから。

国籍や年齢を問わず、「何かを学びたい、磨きたい、極めたい」という強い意欲を持つ方に、本研究科に来ていただきたいと願っています。学ぶことがいかに面白く、楽しいことなのかを、ぜひこの環境で体感してもらいたいですね。

そのためにも、自分が好きなことや知りたいことなど、まずは研究したいテーマを絞った状態で来ていただきたい。それを磨き上げる作業を、私たち教員が全力でサポートします。石岡さんは、本研究科にどのような方に来てほしいとお考えですか?

石岡:丹羽先生がおっしゃるように、「政治・行政」という言葉には堅いイメージがつきものです。そして、その堅さゆえに、私たちの生活から遠いものだと誤解されがちです。しかし政治とはむしろ、自分の身近にある課題を深く観察し、自分との関わりを持つ領域であることを再認識することが重要だと思います。

大学院への進学はハードルが高いと感じるかもしれませんが、私は、社会に出て学問から遠ざかっている人たちにこそ大学院で学んでほしいと思っています。

丹羽:まさにその通りです。私は、学ぶことこそが豊かな人生につながると確信しています。学びによって視野が広がり、さまざまなものに興味・関心を持てるようになります。フィールドワークで本物に触れ、感動を覚える。この感動の積み重ねが、幸福そのものなのです。私は常々学生たちに、「学問は、人生における『豊かさの土台』であり、何が正しいかを判断する『正義の土台』である」と伝えています。

石岡:確かに、先生のおっしゃる通りですよね。私も本学大学院ならではの専門的な学びと経験が、変化の激しい現代社会を生き抜くための自分軸となり、卒業後も「自分らしさ」を貫くための自信につながると思っています。

これから学ぶ皆さんにも、ぜひ拓殖大学大学院 地方政治行政研究科の議論と実践を通して、「自分らしさ」を見つけてほしいと思います。